ISPSD2024 会議報告
2024年6月2~6日にドイツ・ブレーメンに於いて第36回International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD)2024が開催された。講演会初日のオープニングセッションでは、京都大学・木本先生への2024 IEEE Andrew S. Grove Awardの授賞式が執り行われ、シリコンカーバイドの材料およびパワーデバイス開発における功績が称えられた。
今回の会議も近年同様に盛況で、参加人数488名とコロナ過前の2019年上海の600名に及ばないものの、コロナ過明け最初の完全対面開催であった昨年と同等であった。また、投稿件数は2020年の339件に次いで過去2番目の338件で、採択件数は141件と採択率42%は例年並みだったのに対し、オーラル発表に限ると12%と過去最も狭き門となった。カテゴリー別ではワイドギャップ半導体のGaN系とSiC系(G2O3含む)の発表が年々増え全体の約6割を占めるに至り、オーラルセッションはGaNが2セッション、SiCが2セッション、Ga2O3が1セッション、更にSiCまたはGaNの双方向トランジスタのセッションが新設された。発表件数を地域別、材料別に分解すると、アジア(アカデミック)からの発表が全体の約半数の72件と突出している。これらの殆どは中国の大学からの発表で、ワイドギャップ半導体のデバイス試作ラインが複数の中国の大学でも整備されたことでデバイス開発がかなり活発化している。これは同時に次世代技術に対する人材育成が中国で急速に進んでいることを意味し、一方の日本では、企業からのSiデバイスの発表が目立つが、アカデミックの発表が少なく人材育成が遅れていると言える。
ワイドギャップ半導体を材料別で見ると、SiCはTPECの成果として日立・産総研から発表した3.3kV耐圧のFin-SiC MOSFETや、東芝のSBD内蔵MOSFETなど、日本企業からMOSFETの諸特性を高次元でバランスする先進的なデバイス設計技術が示された。一方で、浙江大学から埋め込みSJの発表がなされるなど、中国のプロセス技術が急速に進化している印象だった。会議全体を通じて新規デバイスに関する動きは、双方向MOSFETのセッションが新設されたが、縦型MOSFETを用いるメリットは不明で、またデバイス高耐圧化に関する発表もなく、停滞気味といえる。産総研・TPECは近年、スーパージャンクションやパワーICで先導的な成果を上げており、次の一手に期待が集まっている。GaNは殆どが中国からの横型HEMTの発表でCharitat Young Researcher Awardも受賞した一方で、日本からは産総研の縦型ダイオードに関する1件のみであった。縦型については、NiOをp型カラムにしたSJ、縦型JFETと横型HEMTのモノリシックIC、SiCとのハイブリッドなど、新コンセプトの提案はあるものの、本命である縦型MOSFETの実用化に向けたプロセス技術の進歩は見られなかった。Ga2O3は全てが中国の大学からの発表で、材料への賛否両論はあるとしても、未成熟な材料をテーマにして設計、プロセス、評価までを大学で一貫して実施できていることは、人材育成の観点で進んでいるといえる。Poster Awardも縦型UMOSFETで受賞している。
日本は、昨年はRC-IGBTでBest Paper Award、Poster Award、Charitat Awardの3賞を独占し、今年も引き続き技術力の高さを示してきたが、中国で急速に人材育成が進むなか、いつ逆転されてもおかしくない状況である。日本は研究開発、人材育成により多くのリソースを充てるべきであり、その中でTPECの役割、戦略が問われている。